SPIVAスコアカードとは
SPIVAスコアカードとは、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが年に2回発行しているレポートで、アクティブ運用の投資信託を適切な市場インデックスと比較した包括的データを提供するものです。分かり易く言うとアクティブファンドの成績表です。米国版が2002年からスタートし、日本版は2015年からスタートしました。
開始時期の違いにより、米国版では調査期間1年、3年、5年、10年、15年のデータが記載され、日本版では調査期間6か月、1年、3年、5年、10年のデータが記載されています。(2020年時点)
見る方法
SPIVAスコアカードを見るにはS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスのサイト内検索に「spiva」と入力すれば日本語版のレポートを閲覧できます。また左側の言語の欄の英語のレポートにチェックを入れると海外版のレポートも見ることが出来ます。分かり易い表になっているので英語がわからなくても理解できます。
SPIVAスコアカードの特徴
SPIVAスコアカードの特徴は
- 生存者バイアスを排除したデータになっている。
- 対象となるファンドに対して適切な指数で比較されている
- 均等荷重と資産荷重の両方のパフォーマンスのデータを記載している
では、それぞれ見ていきましょう。
生存者バイアスの排除
ファンドの中には清算されたり他のファンドと統合されたりして消滅してしまうものもあります。こういったことは概して成績の良くないファンドで起こりがちです。従って生き残った(=成績優秀な)ファンドのデータだけを集計してしまうと実際以上に良い結果が出てしまいます。これが生存者バイアスです。
この生存者バイアスを避けるためにSPIVAスコアカードでは次のような手法をとっています。調査対象期間の期首の段階で存在したファンド数を分母とし、各期末にベンチマークを上回ったファンドの数をカウントしてその割合を算出します。そうすることで調査対象期間中に清算などにより消滅したファンドはベンチマークを下回ったファンドにカウントされることとなり、その影響を回避できます。
ファンドごとに適切な指数と比較する
ファンドを、ファンドの投資対象銘柄の時価総額の大きさによる4種類(大型、中型、小型、マルチキャップ)、ファンドの投資スタイルによる3種類(グロース、コア、バリュー)で分類します。そしてそれぞれのグループに適した指数(市場インデックス)と比較を行います。どんなファンドも一律にメジャーな指数(S&P500やTOPIXなど)と比較するのではなくそのファンドに適した指数と比較することでより適切な分析が行えます。
具体的には下の表のような感じです。
米国版
ファンドカテゴリー | 比較する指数 |
全ての米国内ファンド | S&P composite1500 |
全ての大型株ファンド | S&P 500 |
全ての中型株ファンド | S&P MidCup400 |
全ての小型株ファンド | S&P SmallCup600 |
全てのマルチキャップファンド | S&P composite1500 |
大型株グロースファンド | S&P500 Growth |
大型株コアファンド | S&P500 |
大型株バリューファンド | S&P500 Value |
中型株グロースファンド | S&P MidCup400 Growth |
中型株コアファンド | S&P MidCup400 |
中型株バリューファンド | S&P MidCup400 Value |
小型株グロースファンド | S&P SmallCup600 Growth |
小型株コアファンド | S&P SmallCup600 |
小型株バリューファンド | S&P SmallCup600 Value |
マルチキャップグロースファンド | S&P composite1500 Growth |
マルチキャップコアファンド | S&P composite1500 |
マルチキャップバリューファンド | S&P composite1500 Value |
日本版
日本版のファンドカテゴリーの分類は米国版に比べて簡素なものになっています。具体的には下の表のようなものです。
ファンドカテゴリー | 比較する指数 |
日本の大型株ファンド | S&P/TOPIX 150指数 |
日本の中小型株ファンド | S&P 日本中小型株指数 |
全ての日本株ファンド | S&P 日本500指数 |
米国株式ファンド | S&P 500 |
グローバル株式ファンド | S&P グローバル1200指数 |
国際株式ファンド | S&P グローバル(日本を除く)1200指数 |
新興国株式ファンド | S&P エマージングBMI指数 |
均等加重と資産加重の両方のパフォーマンスを記載
ファンドグループの平均パフォーマンスを計算する場合、通常はファンドの資産規模に関係なく1つのファンドとしてカウントし平均を算出します。これが均等加重です。この場合、資産規模1000億ドルのファンドも資産規模1億ドルのファンドも同等に扱うことになります。その歪みを調整するため資産規模に応じたウエイト(=資産加重)をつけて平均パフォーマンスを計算します。こちらのほうが実際の運用成績をより正確に表していると言えます。
均等加重平均はアクティブファンドの単純平均リターンを表し、資産加重平均は各カテゴリーに投資された総金額の平均リターンを表します。SPIVAスコアカードでは均等加重で計算した平均パフォーマンスと資産加重で計算した平均パフォーマンスの両方が記載されています。
SPIVAスコアカードの注目点
ベンチマークを下回ったアクティブファンドの割合
SPIVAⓇスコアカードスコアカードで最も注目すべきなのは『レポート1』です。ここには各投資期間ごとに比較対象となるベンチマークをアンダーパフォーム(下回った)アクティブファンドの割合が記載されています。
米国版
具体例として、米国版のスコアカード(2020年中期)は下の票のような感じです。
ファンドカテゴリー | 比較する指数 | 1年 | 3年 | 5年 | 10年 | 15年 |
全ての米国内ファンド | S&P composite1500 | 67.40% | 70.59% | 80.09% | 84.49% | 87.23% |
全ての大型ファンド | S&P500 | 63.17% | 71.24% | 77.97% | 82.06% | 86.92% |
全ての中型ファンド | S&P MidCup400 | 43.69% | 49.66% | 59.34% | 74.51% | 81.37% |
全ての小型ファンド | S&P SmallCup600 | 46.79% | 56.70% | 66.67% | 75.24% | 81.47% |
全てのマルチキャップファンド | S&P composite1500 | 65.02% | 65.61% | 78.02% | 85.88% | 89.38% |
大型株グロースファンド | S&P500 Growth | 25.66% | 48.32% | 61.48% | 82.13% | 92.35% |
大型株コアファンド | S&P500 | 70.70% | 84.42% | 93.07% | 94.71% | 90.63% |
大型株バリューファンド | S&P500 Value | 72.98% | 75.62% | 81.03% | 86.22% | 79.02% |
中型株グロースファンド | S&P Midcup400 growth | 16.79% | 20.77% | 35.00% | 59.89% | 73.86% |
中型株コアファンド | S&P Midcup400 | 61.61% | 64.60% | 79.83% | 87.58% | 92.66% |
中型株バリューファンド | S&P Midcup400 Value | 38.10% | 67.92% | 74.14% | 80.82% | 82.50% |
小型株グロースファンド | S&P SmallCap600 Growth | 11.23% | 20.67% | 40.31% | 57.35% | 74.86% |
小型株コアファンド | S&P SmallCap600 | 61.11% | 69.96% | 82.01% | 90.16% | 86.63% |
小型株バリューファンド | S&P SmallCap600 Value | 59.34% | 79.00% | 82.01% | 90.16% | 86.63% |
マルチキャップグロースファンド | S&P composite1500 Growth | 57.74% | 62.57% | 75.00% | 83.98% | 90.41% |
マルチキャップコアファンド | S&P composite1500 | 77.06% | 83.88% | 93.82% | 91.31% | 89.33% |
マルチキャップバリューファンド | S&P composite1500 Value | 21,52% | 35.37% | 46.43% | 71.43% | 80.82% |
日本版
日本版のSPIVAスコアカードは始まったのが米国版より遅かったので、測定期間が6か月、1年、3年、5年、10年となっています。具体例として日本版(2020年中期)は下の表のようになってます。
ファンドカテゴリー | 比較する指数 | 6か月 | 1年 | 3年 | 5年 | 10年 |
日本の大型株ファンド | S&P/TOPIX 150指数 | 48.57% | 48.70% | 68.86% | 67.28% | 77.99% |
日本の中小型株ファンド | S&P 日本中小型株指数 | 26.13% | 27.86% | 25.27% | 30.00% | 51.76% |
全ての日本株ファンド | S&P 日本500指数 | 45.36% | 45.62% | 56.58% | 54.53% | 68.44% |
米国株式ファンド | S&P500 | 72.93% | 78.03% | 82.54% | 86.32% | 83.33% |
グローバル株式ファンド | S&P グローバル1200指数 | 52.42% | 50.83% | 75.39% | 92.31% | 92.48% |
国際株式ファンド | S&P グローバル(日本を除く)1200指数 | 77.42% | 79.37% | 83.87% | 86.79% | 94.55% |
新興国株式ファンド | S&P エマージングBMI指数 | 75.31% | 69.88% | 90.59% | 89.29% | 98.46% |
まとめ
まず注目して頂きたいのは最長の調査期間15年(日本版では10年)の欄です。米国版、日本版ともに多くのアクティブファンドがベンチマークを下回っています。また調査期間が短い時から調査期間が長くなった時の数値の推移にも注目してください。調査期間が短いうちはベンチマークを下回るファンドの割合が小さくても、調査期間が長くなると多くのアクティブファンドがベンチマークを下回るという傾向がみられます。2020年中期版だけでなく過去のどのSPIVAⓇスコアカードでも見られる傾向です。長期間継続してベンチマークを上回る運用を行うのがプロのファンドマネジャーでも如何に難しいかを示しています。またこれらのデータは生存者バイアスを排除したデータであるという点も重要ポイントです。
ファンドの生存率
次に注目するのはファンドの生存率です。米国版、レポート2に記載されています。
ファンドは一度設定されても運用成績が良くないと、清算されたり他のファンドと統合されたりして消えてしまうことがしばしば起こります。どのくらいの割合のファンドが生き残ることが出来たのかを示すデータです。
米国版は調査期間1年、3年、5年、10年、15年の調査開始時点のファンド数と現時点での生存率のデータが、日本版は調査期間6か月、1年、3年、5年、10年の調査開始時点のファンド数と現時点の生存率のデータが記載されています。
四分位数の推移
次に注目するのは四分位数の推移の推移です。レポート5に記載されています。
四分位数とは
ファンド群を成績順に上位から4つに分類する際に、その境目となる数値が四分位数です。分かり易く言うと第1グループに入るためのカットラインが第1四分位数、第2グループに入るためのカットラインが第2四分位数、第3グループに入るためのカットラインが第3四分位数ということです。
四分位数の推移から何がわかるのか
上のグラフはSPIVAⓇスコアカード米国版2020年中期のデータをもとに作成したものです。第1四分位数と第3四分位数、各カテゴリーの平均リターンの推移を表しています。
これらのグラフを見ると調査期間が長くなるほどに第1四分位数と第3四分位数が各カテゴリーの平均リターンに吸い寄せられるように近づいているのがお分かりいただけると思います。上位25%の境目と下位25%の境目が次第に近づいてその差が小さくなっているということです。これは期間が長くなるにしたがって成績上位のファンドも成績下位のファンドもそのカテゴリーの平均リターンに近づいていくことを意味します。一時的に好調なファンドも長期のリターンは平均リターンとそう変わらないモノになっていく、これが平均への回帰(RTM)といわれる現象です。
このようにレポート5に記載された四分位数の推移を見ると、平均への回帰の傾向をはっきりと見ることが出来ます。
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