リスク(標準偏差)1単位当たりの超過リターン(リスクゼロでも得られるリターンを上回った超過収益)を測る指標であるシャープ・レシオにその名を残すノーベル経済学賞受賞者のウィリアム・シャープがファイナンシャル・アナリスト・ジャーナルのなかで「グループ全体では、アクティブ・マネジャーの運用成績は常にパッシブ・マネジャーを下回る」と述べています。
パッシブ運用とはインデックス運用のことですので、アクティブ運用グループは常にインデックス運用グループの成績を下回るということを言っています。これはどういうことなのでしょうか?
今回のテーマで大事なポイントはグループで考えるというところです。
グループでの比較ですので、アクティブ運用グループとインデックス運用グループのそれぞれの平均リターンを比較することになります。
それは始めましょう。
まずは投資に掛かるコストを除外して考える
まず投資家全体で考えます。
投資家全体では市場からもたらされるすべてのリターンを獲得することになるので、当然ながら投下全体のリーターンの平均は市場平均ということになります。
ここで全投資家をインデックス運用グループとアクティブ運用グループに分けます。インデクス運用以外の運用手法を行う人やファンドはすべてアクティブ運用グループに分類されます
インデックス運用では市場と連動した値動きをしますので、インデックス運用グループの平均リターンは市場平均のリターンと同じになります。ちなみにインデックス運用の場合はそれぞれの投資家ごとに見た場合でも運用成績は同じなので、各投資家のリターンもみな市場平均と同じということになります。
ではアクティブ運用グループはどうでしょうか?
実はアクティブ運用グループの平均リターンも市場平均のリターンと同じになります。
投資家全体で見た時のリターンの平均が市場平均なので、そこから市場平均のリターンを獲得しているインデックス運用グループを除外しても平均は変わりません。
具体例を使って説明しましょう。あるクラスのテストの点数が以下のようだったと仮定します。
A | B | C | D | E | F | G | H | I | G | |
点数 | 40 | 80 | 90 | 50 | 10 | 70 | 50 | 60 | 20 | 30 |
この場合、このクラスの平均点は50点となります。ここで平均点と同じ50点を獲得しているDさんとGさんを除外して計算してみると残り8人の平均点も50点となります。平均点の人を除外しても平均点は変わらない。これと同じですね。
ちなみにアクティブ運用グループの中のそれぞれの投資家のリターンはまちまちで、市場平均を上回る人もいれば下回る人もいます。以前の記事でお話ししたように同じアクティブ運用グループの投資家同士で利益の取り合いをしている状態です。
以上のように投資に掛かるコストを考慮する前の時点では、インデックス運用グループもアクティブ運用グループも平均リターンはともに市場平均のリターンと同じということになります。
投資に掛かるコストを考慮する
ここからは投資に掛かるコストを考慮していきましょう。
投資家が実際に獲得できるリターン(実質リターン)は市場からもたらされるリターンから投資に掛かるコストを引いたものになります。
インデックス運用グループもアクティブ運用グループも投資に掛かるコストを考慮する前の段階では平均リターンは同じなのですから、実質リターンの違いはそれぞれのグループの平均コストの差ということになります。
では、どちらのグループの平均コストが高くなるでしょうか?これは考えるまでもなくアクティブ運用グループのほうが高くなります。
その理由を見ていきましょう。
取引に掛かるコスト(売買手数料)
アクティブ運用では高い収益を目指し、銘柄選択やマーケットタイミング戦略に基づいて頻繁に売買を行うのでその度に売買手数料が発生します。また取引の規模が大きかったり流動性の低い市場(小型株や新興市場)で売買を行う場合は、マーケットインパクトコスト(自分の売買によって価格が不利な方向に動くことによって発生するコスト)も発生します。
これに対しインデックス運用は市場全体またはそれに準じたポートフォリオからなるインデックスファンドを保有し続けるだけなので基本的に売買は行わず、したがって売買コストはほとんど生じません。
税金
アクティブ運用では頻繁に売買を行うので、譲渡益がある場合はそのたびに課税されその分の税金を支払わなければいけません。
インデックス運用では売買をほとんど行いませんので譲渡益課税もほとんど発生しません。
信託報酬
アクティブ運用においてプロに運用を依頼する場合(=アクティブファンドを使う場合)はさらにコストが掛かります。それが信託報酬です。
一般的なインデックスファンドとアクティブファンドの信託報酬を比較すると、平均1%程度アクティブファンドの信託報酬が高くなるので、これもアクティブ運用とインデックス運用のコストの差を広げる要因となります。
まとめ
アクティブ運用グループが常にインデックス運用グループの成績を下回るとはどういうことなのかお分かりいただけたでしょうか。
このシンプルな教訓が今回もポイントになりました。
「市場からのリターン」についてはアクティブ運用グループの平均リターンもインデックス運用グループの平均リターンも市場平均のリターンと同じでした。違っていたのは「コスト」です。「コスト」の差によってアクティブ運用グループはインデックス運用グループの成績を常に下回ることになるのです。
やはりコストが大事というですね。
コメント